3:実形状弾性血管モデルによる血流の三次元可視化解析
1. 背景・目的
脳動脈瘤の三大好発部位の一つとして、後交通動脈分岐部が挙げられているが1),近年脳動脈瘤の破裂と血流の相関の可能性が報告されてい
る中で,後交通動脈が脳動脈瘤内の血流に与える影響は未だ解明されていない.また,我々の従来の研究において,破裂脳動脈瘤内の特有な血流として衝突ジェット流れを確認したが2),瘤から分岐した後交通動脈の存在が,衝突ジェット流れに与える影響も不明確であった.そこで本稿では,破裂脳動脈瘤から分岐した後交通動脈が瘤内の血流に及ぼす影響を明らかにすることで、後交通動脈の存在が脳動脈瘤の破裂に与える影響について検討することを目的とした.
2. 方法
症例は,後交通動脈分岐部に発生した瘤径4.3mmの破裂瘤を用いた.この症例は経過観察中にDSAを撮影し,その9日後に破裂した瘤である.破裂前に撮影したDSA画像によりICA, MCA, ACA, Pcom, 全てを含めた実形状弾性脳動脈瘤モデルを作製した(Fig.1(le
ft)).血管壁の力学的特性は正常なヒト内頚動脈と同等のコンプライアンス1.1×10¬-31/mmHgを有する.本実験ではヒト内頚動脈を模擬するために拍動型脳循環シミュレータを用いた.後交通動脈に流れ込む流量条件を,
健常者の平均値である15ml/minとし,その影響を知るために,0ml/minおよび 60ml/minを加えた3条件で比較実験を行った.尚,60ml/minとは個人差を考慮した際の健常者の取りうる最大の流量に相当する.3).三次元ステレオPIV法により,時間解像度2ms,空間解像度150μm程度で血流のマイクロスケール解析(スキャン断面数:41,ピッチ150μm)を行った(Fig.2
).また,可視化粒子としてD=15μm,ρ=1.1kg/m3の蛍光粒子(Fluostar®,EBM社)を使用した.
3. 結果
Fig.3に後交通動脈に流れ込む流量を15ml/minに設定した際の3次元流線を示す.親血管の流れから分岐し
た流れがdistal側ネック部に衝突し流れが分岐し(a部),瘤ジェット流れを形成し(b部),瘤壁にそって流れ込む様子が見られた(c部).瘤壁に沿って流れてきた血流は,瘤内中心部で渦を形成しながら親血管へと流れる流れ(d部)と直接親血管,Pcomに流れ込む流れに分かれる(e部)様子が確認できた.
4. 考察
弾性血管モデルを使用した三次元ステレオPIV実験により,後交通動脈の有無が破裂瘤特有の衝突ジェット流れの存在を変えることはないが,衝突を激化させることが示された.後交通動脈に流れこむ流量が増加する程,瘤流入部における衝突流れの流速は高くなり,高い流速を保ったまま瘤から流出する.そのために流出部においても流れがより瘤壁へと引き寄せられ,壁近傍における速度勾配が大きくなることにより,激しい振動を発生させると考えられる.また,流入から流出まで瘤壁に沿った流速の高い流れが形成されることで,瘤内の渦流れが局所化し不安定な流れになることによって,血流が振動すると考えられる.このことから,脳動脈瘤の流出部に分岐した後交通動脈の存在が,瘤の破裂を促進する働きを持つのではないかと推察された.
5. 結語
本研究では,これまで体系化されてこなかった流量条件に焦点を置き,破裂脳動脈瘤内の流れに後交通動脈が及ぼす影響を検討した.これより,血管分岐部を瘤内にもつ症例では,瘤に流入する血流量が増加し,衝突流れが激化することで衝突部での血流の振動が顕著になることが分かった.このような現象は,本症例のように流出側に血管分岐部をもち,さらに瘤の体積に対してその血管径が比較的に大きい場合に特に顕著になると考えられる.
参考文献
(1) Young-Gyun Jeong, M.D., Ph.D., Yong-Tae Jung, M.D., Ph.D., et.al: Size and location of ruptured intracranial aneurysms, J Korean Neurosurg Soc 45, 11-15, 2009,
(2). Kamoda A, Yagi T, Takao H, Murayama Y, et al: Biomedical engineering analysis of the rupture risk of cerebral aneurysms: flow comparison of three small pre-ruptured versus six large unruptured cases, ICBME 2008, Proceedings 23, pp.1600-1603, 2009
(3) M.Zhao, S. Amin-Hanjani, et.al : Regional Cerebral Blood Flow Using Quantitative MR Angiography. ,AJNR 28,1470-1473, 2008.