2013/10/04 - 1:04午前 -- admin

1. 背景・目的

膝前十字靭帯損傷の再建術は,国内では年間1万5千例程度行われている.前十字靭帯損傷の治療では健常な自己腱を採取して再建治療が行われており,臨床で満足できる人工靭帯がない.本研究では,我々が開発してきている動物由来組織から細胞成分を除去して低抗原化する組織無細胞化技術を駆使し,ヒト前十字靭帯損傷の治療に必要なサイズの長さ16cmの腱の無細胞化を実現することを目的とした.また,無細胞化処理が腱の繰り返し負荷に対する力学的特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.

2. 方法
2.1 ウシ腱の無細胞化処理長さ16cm,幅10mm,厚さ4mmのウシ指伸筋腱を対象とし,図1に示す独自の組織無細胞化処理装置に組み込むチャンバ
ーを製作した.2wt%のデオキシコール酸溶液を平均拍動圧力80mmHg,平均流量5L/min,拍動数70bpmで循環させなが>ら24.5GHzのマイクロ波を24時間照射した.処理中の循環溶液の温度を計測し,37.4℃以上でマイクロ波の照射がオフ,37.0℃未満でマイクロ波の照射がオンとなるように制御し,熱によるコラーゲン変性を排除した.組織無細胞化処>理装置で処理後の組織について,核酸分解酵素Benzonaseで24時間撹拌処理を行った.組織中のDNA残存量はPicoGreen DNA Assay Kitを用いて測定した(n=6).
 

2.2 繰り返し引張試験

未処理及び無細胞化処理したウシ腱について,幅4mm,厚さ4mm,チャック間距離45mmのダンベル型試験片を作製した.これらの組織について,0~約100Nの繰り返し引張負荷試験を引張速度300mm/secで1万回行い,破損の有無を確認した.1万回繰り返し引張試験中の組織の乾燥を防ぐため,加湿器を用いて水分を連続噴霧して組織周囲の湿度を90%以上に維持した.さらに,繰り返し試験後の組織について引張速度300mm/secで単軸引張試験を行い,破断応力,弾性率,破断ひずみを比較した.未処理ウシ腱組織,無細胞化ウシ腱組織それぞれについて6本実験を行った.

 

3. 結果

3.1 無細胞化腱の創生

無細胞化処理したウシ腱及びヘマトキシリンエオジン染色像を図2に示す.腱はコラーゲン含有量が90%程度で長手方向に高度に配向しており,組織が厚く無細胞化が困難な組織と考えられている.本研究で独自の無細胞

化処理方法を駆使することで,ヒト前十字靭帯再建に適用可能なサイズの長さ16cmのウシ腱からDNA量を99.99%とほぼ完全に除去することができた.

 

3.2 繰り返し引張負荷試験

 未処理および無細胞化処理したウシ腱について,引張速度300mm/secで1万回の繰り返し引張試験を行った.その結果,いずれの組織も1万回の繰り返し引張負荷に対して破断せず,無細胞化処理後も強度は保持されることがわかった.繰り返し負荷試験後に単軸引張試験を行ったところ,無細胞化ウシ腱の破断応力は46.1±8.5MPa,弾性率は524±78MPa,破断ひずみは23.7±2.6%となり,未処理ウシ腱の破断応力38.6±9.5MPa,弾性率538±101MPa,破断ひずみ24.4±5.0%と統計的に同等であった(n=6).(図3)さらにNaveenらの報告(2)によるヒト前十字靭帯の破断応力24.4±9.2MPa,弾性率113±45MPa,破断ひずみ28±7%と比較すると,ウシ無細胞化腱はヒト前十字靭帯の再建材料として十分な引張強度を有していると考えられた.

4. 結語ヒト前十字靭帯再建に適応可能な長さ16cmの無細胞ウシ腱を作製することに成功した.繰り返し引張負荷試験から,無細胞化処理後も腱の力学的特性は維持されることが明らかとなった.
参考文献(1) Iwasaki, K., Ozaki, S., Kawai, T., Yamaguchi, S., Eto, M., Ohba, Y., Umezu, M., “Innovative bioreactor technologies produced a completely decellularized and pre-endothelialized functional aortic valve”, Proc. of 12th Int. Conference on Biomedical Engineering, in CD Rom (2005). 
(2) Naveen, C., Hossein M., James, S., Javad, H., “Sex-based differences in the tensile properties of the human anterior cruciate ligament”, Journal of Biomechanics, Vol. 39(2006) , pp.2943–2950.以上引用元
日本機械学会 第24回バイオエンジニアリング講演会論文集
 

 

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