2013/11/05 - 1:41午後 -- admin

単一細胞高速イメージングによるヒト赤血球衝突破壊動態の検討 1. 背景・目的赤血球破壊には流体力が深く関連しており,例えば,人工臓器では乱流や高せん断等の複雑な流動要素による影響が懸念されている(1-2).従来的な赤血球破壊の評価では,単純せん断等の理想的な環境で遊離ヘモグロビン濃度を測定する手法が主であり,実環境のもと個々の細胞を考慮しているとは言い難い.結果,個々の細胞破壊がいつ,どこで,どのように発生するか未だ明確になっていない.そのため,赤血球破壊の発生機序の解明には個々の細胞を考慮した力学的な解釈が必要不可欠であると考える.そこで我々は,人工臓器内の流れをマクロ的視点でモデル化した後,観察された異常流れをマイクロ流路で再現することで細胞破壊をミクロ的視点から検証するという新たな概念を提案している.早大梅津研究室では人工弁流れの時系列可視化計測と連続ウェーブレット変換を駆使した流れのモデリングから,赤血球破壊の新しい仮説として高速衝突流れに着目している(3).本研究ではマイクロ流路を用いて複雑な流動要素を再現し,単一細胞スケールで赤血球破壊動態を高速イメージングする.2009年度までに個々のブタ赤血球が壁面衝突時に座屈崩壊する瞬間の可視化に成功し,衝突流れが破壊要因になり得ることを明らかにした(4).本実験では衝突速度に応じたヒト赤血球の破壊動態を明らかにし,破壊の要因について検討を行うことを目的とした. 2. 方法  Fig.1に本研究で使用した実験装置の概略図を示す.本実験では異なる健常者ボランティアの静脈血より抽出した赤血球(採血後5時間以内)を使用し,3回の実験を繰り返し行った.赤血球はリン酸緩衝水溶液(PBS) で個々の赤血球が識別可能なHct値=1.0[%]に調整した後,シリンジポンプ(PHD 22/2000, Harvard Apparatus)を用いて衝突流れを創出するマイクロ流路内へ流入する.流路にはシースフローが組み込まれており,赤血球同士が干渉することなく,一様に壁面に衝突させることが可能である.実験温度は37[℃]に設定し,100倍対物レンズ(N.A=0.5, CFI Planfluor, Nikon)を取り付けた倒立型光学顕微鏡(ECLIPSE Ti-U, Nikon)と高速度カメラ(最高263K [fps], shutter=369 [ns], FASTCAM SA5, Photoron)を用いて衝突速度に応じた赤血球衝突動態の観察を行った.  3. 結果Fig.3に衝突前の赤血球動態を示す.図中に示す数値は,衝突時の時刻をt=0としたときの時間(単位[μs])を表している.また,Fig.4に定常・非定常領域における赤血球形状をまとめる.グラフは実験3回分の平均値を表している.(A)  定常領域 (20<x [μm]) 赤血球長さは低速に比して中速で3[%],高速で13[%]増加する一方で,赤血球幅はほぼ一定の値を示しており,赤血球の伸長度は流速に応じて高くなることが明らかとなった.また,高・中速では共にくびれ率C≒1.00と膜が直線状の伸長状態を示しているのに対し,低速ではC≒1.05と既に丸みを帯びた非伸長状態を示した.(B)  非定常領域 (5<x<20 [μm]) 流速に応じて赤血球は異なる動態を示した.高速の場合,衝突壁近傍まで伸長状態を維持し赤血球は,長さ方向のみに圧縮される紡錘変形を示した.中速の場合,定常領域で伸長状態にあった赤血球は,長さ方向へ圧縮されるとともに急激に両端の幅が増加するくびれ変形を示した.一方低速の場合,高・中速とは異なり,定常領域で非伸長状態にあった赤血球は圧縮とともに幅方向に急激に伸展し球状化した. 4. 結語 ヒト赤血球の衝突破壊動態を衝突速度に応じて体系化することに成功した. 参考文献(1). Paul et al., Shear stress related blood damage in laminar coquette flow, Artificial organs 27(6),517-529, 2003(2). Kameneva MV et al., Effects of turbulent stresses on mechanical hemolysis experimental and computational analysis, ASAIO Journal, 50(5),418-423, 2004(3). Yagi T, Umezu M et al., New challenge for studying flow- induced blood damage: macroscale modeling and microscale verification, ICBME Proceedings 23,1430-1433,2008 (4). Yagi T, Umezu M et al., Single-cell real-time imaging of flow-induced hemolysis using high-speed microfluidic technology, IFMBE Proceedings 25/IV, 2337-2340, 2009

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