Fri, 2013-10-04 00:18 -- admin

node/931. 背景・目的

癌,糖尿病などあらゆる疾患,生活習慣病には血管新生(血管形成,退縮,透過などの血管内皮細胞の運動性)が深く関与している.これまで,血管新生研究は主に,動物の体内および動物から単離した血管付き組織を対象としており,実験系の複雑さが問題となっている.例えば,癌組織中の特定の血管をターゲットとした抗癌剤の開発には,できるだけ単純化した系で周辺組織と血管との相互作用を観察できる必要とされている.そこで本研究では,チップ上で三次元微小血管を作製し,血管新生過程をモニタリングできるデバイスの製作を目指した.具体的には,コラーゲンゲルの三次元加工により細胞の集積,高速管腔化を可能とするマイクロ流路デバイスを作製した.本デバイスは,再生医療のための血管付き組織グラフトとしての応用だけでなく,顕微鏡観察が容易であるため血管新生の解析に有用である.

 

2. 方法

 あらかじめ光造形物を鋳型として作製したポリジメチルシロキサン(PDMS)の型に直径120 µmの針を配置した.針を配置した流路部に中性化したコラーゲン溶液(Type I−Pコラーゲン, 新田ゼラチン)を導入し,30 min,37°Cでゲル化させた.その後,針を静かに除くことで,片側が閉鎖系のコラーゲンチャンネル構造を得た.その後コラーゲンゲル流路内にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)を集積化させ,24 h培養することで、HUVECがコラーゲンゲル内を被覆した微小血管流路(内皮化流路)を得た.

 

3. 結果

本デバイスでは,毛細管現象を利用して,簡易なマイクロピペットの操作のみで細胞を高密度にゲル流路内へ集積化することができた.培養6時間後には集積化した細胞は細胞同士が細胞間-細胞間相互作用により接着し,24時間後には管腔形成および周囲のコラーゲンゲル内へのスプラウティングを確認した.本研究で作製したゲルマイクロ流路デバイスは,細胞を安定的に高密度に,かつ簡易に集積化可能であることを示した.また,集積化した細胞集団は連続的な管腔構造を形成することを共焦点レーザー顕微鏡により確認した.

 今後の展望として,本デバイスはコラーゲンゲル内に様々な細胞を混ぜることで体内の様々な環境を再現し血管内皮細胞との関係性を観察できると考えられる.また,本デバイスはオープンチャンバーであるので作製した血管の取り出しが可能となっている.そのため血管新生の解析にとどまらず再生医療のための血管付き組織グラフトとしての応用が期待できる.

Fig.1 Rapid formation of microvasculartures by cell accumulation method using the end-closed microfluidic collagen gel devices.