Tue, 2013-10-15 20:45 -- admin
1. 背景・目的近年,虚血性心疾患や拡張型心筋症に伴う重症心不全患者に対して,新たな治療法として細胞を用いた再生医療が注目されている.骨髄由来の細胞が心筋細胞に分化することや,心筋組織内に心筋細胞に分化しうる前駆細胞が存在す
ることなどの新しい知見が続々と報告されており,心筋再生の研究開発が加速されている.この細胞治療の具体的な方法として,細胞浮遊液を不全心筋組織内に直接注入することにより血管新生あるいは心筋組織を再生させる方法が多くなされている.しかし,細胞注入法では注入の際に細胞が流出し,組織内に生着する細胞の割合が数%しか存在しない問題を抱えている(1).そこで,不全心筋に対する次世代再生医療として組織工学による細胞治療が期待され>ている.組織工学とは,細胞を3次元組織に構築してから移植治療を行うという手法で上記のような細胞注入の抱え
ている問題点を克服し,先天性心疾患などの欠損組織に対する治療も可能とするものとして注目されている(2).我>々は組織工学的な手法のひとつである細胞シートの技術を用いて3次元心筋組織を構築する研究を展開してきた.そ>の手法とは温度降下処理のみで表面が細胞非接着性になる温度応答性培養皿を用いて細胞シート作製し,その細胞シートを多層化して心筋組織構築をする方法である.これまでに細胞シート積層法を用いて肉眼レベルで同期して自律拍動が確認できる心筋シートの作製に成功している(3)(4).しかし,この細胞シートを多層化するだけでは酸素・栄
養素の供給ならびに老廃物を除去するシステムがないため積層枚数や細胞成長に限界が生じる.そこで,本研究では
細胞シートに培養液を灌流させる血管網を導入させることで酸素・栄養素供給を増大,老廃物除去を促進し細胞シートを維持することを目的とした.
2. 方法
 実験は生後0日のSD系ラットの心臓から単離培養した心筋細胞を使用した.仔ラットから心臓を摘出した後,組織>主要構成要素であるコラーゲンを分解する酵素であるCollagenase TypeⅡ, Worthingtonを溶解したHanks溶液の中で>振盪することによって心筋細胞を単離した.単離した心筋細胞を320×104 cell/dishの濃度で温度応答性培養皿(φ35 mm, Dish Upcell Type-E,  Cellseed) に播種し,4日間インキュベータ内で培養した後,心筋細胞はコンフルエ>ント状態であるため,20℃に温度を降下させることでシート状の心筋細胞を培養皿から剥離回収した.
 本手法で作製した3層心筋細胞シートを培養皿上で培養すると壊死を起こすことが明らかとなった.本研究では,>培養デバイスの基本構想は生体ラットの皮下での細胞シートへの血管新生環境を模擬し培養デバイスを考案した.コ
ラーゲン(皮下組織模擬)にマイクロ流路(血管模擬)を作製して,その流路に培養液(血液)を灌流して培養を行
う構成である.図1はデバイスに血管ネットワークが発生する仮説に基づいている.心筋細胞シートをマイクロ流路>付きのコラーゲンゲル上に接着させて培養を行う(図1-A).培養中,心筋細胞シートには内皮細胞,平滑筋細胞,>繊維芽細胞と血管を構築する細胞が豊富に含まれるため,細胞シートから血管が伸長してくる.この様子の模式図を
図1-Bに示す.この伸長してきた新生血管はコラーゲンゲル内マイクロ流路に到達し細胞シート内に新鮮な培養液を>送り込むようになり細胞シートを維持させる方法を考案し検討を行った.(図1-C)デバイスは灌流培養システムに>接続させて灌流培養を行った.デバイスの外観は図2の左上に示し,仮説で示した構成を有したデバイスの断面図を>図2に示す.
 
3. 結果
生体内細動脈には流速0.3 ~1.0 cm/secの血液が定常流で流れている.そこで,流量0.3 ~1.0 mL/minをデバイスに>流し込むと生体内血管に生じるずり応力と同様になる様に設定した.さらに,細い血管では拍動性が無いためシリン
ジポンプを使用し定常流の灌流培養を行った.5日間の培養後,パラフォルムアルデヒド4%に浸して固定し,細胞シ
ートの接着具合を観察した後にパラフィン切片を作製した.作製した切片はAZAN
染色を行って,血管の出来具合や細胞の生死を確認した.流量0.5 mL/min時の結果を図3に示す.細胞シートは培養>皿上で培養した時の結果と違い壊死することは無かった.さらに,細胞が心筋細胞シートから浸潤し血管の様な管腔

を形成している場所を確認した.矢印は管腔形成している場所を示している.
4. 結語研究の灌流培養システムを使用し培養液が灌流可能な血管網が構築できたことにより,さらに心筋細胞シートを重ねていくことが可能になったと考えられる.今後は,心筋細胞シートを積層し,厚い組織の構築を目指す.さらには作製した組織の収縮力機能評価をするとともに血管新生がどのようにして起こるかをIn vitroで観察し追究する予定で
ある.
 

4. 結語

研究の灌流培養システムを使用し培養液が灌流可能な血管網が構築できたことにより,さらに心筋細胞シートを重ねていくことが可能になったと考えられる.今後は,心筋細胞シートを積層し,厚い組織の構築を目指す.さらには作製した組織の収縮力機能評価をするとともに血管新生がどのようにして起こるかをIn vitroで観察し追究する予定である.

 

参考文献

(1) Vincent F. M. Segers & Richard T Lee: Stem-cell therapy for cardiac disease. Nature 451: 937-942, 2008

(2) Langer R, Vacanti JP: Tissue engineering. Science 260: 920-926, 1993

(3) Simizu T, Yamato M, Akutsu T, Shibata T, Isoi Y, Kikuchi A, Umezu M, Okano T. Electrocally communicating three-dimensional cardiac tissue mimic fabricated by layered cultured cardiomyocyte sheets. J Biomed. Master, Res 60:110-117, 2002.

(4) Shimizu T, Yamato M, Akutsu T, Setomaru T, Abe K, Kikuchi A, Umezu M, Okano T. Fabrication of pulsatile cadiac tissue grafts using a novel 3-dimensional cell sheet manipulation technique and temperature- responsive cell culture surfaces. Circ Res. 90:e40-e48, 2002